つむじ風。
しばらくの沈黙の後、
加瀬さんが言いよどむ俺を見て、ふっと笑う。
でもそれは諦めたような、寂しい笑顔だった。
「博子の心にずっといるのがあなただと知ってから、考えていたことがあるんです」
え…?
「新明さん、あなたがそちらの世界の人でなければ…」
…何言ってんだ、あんた
「僕は博子のために喜んで身を引い…」
それ以上言うな!!
言わせてはいけない!
「加瀬さん!!」
俺の前には、怒鳴り声に驚き、
目を丸くした男が立っていた。
あんたは自分が何を言ってんのか、
わかってんのかよっ!
「あいつはあんたを選んだんだ!」
俺じゃない、あんたを…
加瀬達也を選んだんだ…
「それ以上つまんねぇこと言うな。
それに俺は組を抜けるつもりはない」
そこまで言うと、彼は力なく、
そして悲しそうに微笑んだ。