つむじ風。

無理矢理脇をつかまれ、立たされた。

脚に力が入らず、何度も膝が折れる。

ったく、情けなぇな、俺。
もう終わりだな、完全に。
今まで積み上げてきたもの全て、パアだ。

そう思った。


「まあ、待てよ、林。
おまえは身内にも厳しいな。
兄貴分なら、もっと大目にみてやれよ」

誰だ…?
このしわがれた、威圧感のある声は…


それから先は、あまりよく覚えていない。

意識が鮮明になって初めて、
自分の置かれている状況に焦った。

車の後部座席に乗せられた俺の隣には、圭条会5代目総長の神園昭吾が座っていたからだ。

彼は
「人間には、何をやってもうまくいく時期と、
何をやっても裏目に出る時期がある」

そう言って、今の俺は後者の状態に陥っているのだと言って笑った。


そして訊ねる。

「今まで何も恐れず、がむしゃらにやってきたおまえの原動力はなんだ?」と。

俺は言葉に詰まった。


「女だろ?」

…女?そうかもしれない。

俺がここまでこれたのは、
命を顧みずに、修羅場に挑んできたからだ。

死ぬことなんて怖くなかった。

むしろ死んでもいいと思ってた。

それは、ここで死ねば、

おまえのことを忘れられると、心のどこかで思っていたからだ。

胸を締め付ける想いから、やっと解放されると思っていたからだ。

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