つむじ風。

「女と別れる時には、最後に絶対言うんすよ。
こんなことになっちゃったけど、俺はおまえが好きだったって」

「……」

「だからちゃんと、『さようなら』って」

…わかってるよ、それくらい。
けじめをつけなきゃなんねぇことくらい。

だけどあいつはあの人のもとに戻ったんだ。
今さら、かき乱すようなことはできない。


「言ってあげなきゃ、博子さんの気持ちだって、またガキん時の繰り返しになっちまう」

…繰り返し、か。

また俺は別れを言わずに
あいつの前から姿を消すもんな。

「そうしなきゃ、納得してお互い前に進めないっしょ?博子さんのためでもあるんですよ」

わかってる。
だけど、無理だ。

警察が俺に目をつけている。
林さんの監視もしばらく続くだろう。

そんな危険に博子をさらすわけにはいかない。

「警察は、俺がまきます」
「絶対、博子さん、連れてきますから」


なぁ、博子。

こいつらバカだろ?
俺のためにこんな必死になって。

こいつらのためにも、
俺は逃げてる場合じゃないのかもな。

意地を張ってる場合じゃないのかもな。

俺は静かに目を閉じる。

少しの間、想い出にひたらせてくれ。

おまえに思いのたけを余すところなく伝えられるよう…
共に過ごした日々を、少しでも思い出したい…

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