つむじ風。
おまえの作ったチョコを抱えて家に帰ると、
おふくろと兄貴が神妙な顔つきで、こちらを見た。

「…んだよ?」

重苦しい雰囲気だった。

「…亮二」

おふくろが言った。
実家のある信州に帰るって。

突然だった。

あまりに突然すぎて
事態が飲み込めなかった。

すぐにおまえの顔が浮かんだよ。

おまえと離れ離れになるって
そう思った。

「…俺は行かねぇよ」

「亮二」
大学進学が決まっていた兄貴が
俺の肩をつかんだ。

「母さんの話を聞こう」


話の途中、
おふくろはガサガサの荒れた手で
何度も頬の涙を拭った。

親父が死んでからおふくろは
朝も夜もかけもちで働いた。

俺たち兄弟も、学校の許可を得て
新聞配達のアルバイトをしていた。

だけど、家のローンや学費を払えば
手元に残るのは
わずかばかりの金だ。

そんな無理がたたって、
とうとうおふくろは身体を壊した。


でもおふくろの唯一の願い。

俺たち兄弟が大学に行くこと。

学歴で苦労した親父が言ってたそうだ。

何がなんでも息子たちを
大学に行かせるって。

おふくろはそれを忠実に守ろうとしていた。

「大学なんて行きたくねぇよ。
学校辞めて、今から働いたっていいんだぜ、俺」

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