つむじ風。
俺たちは抱き合った。
背中に回されたおまえの腕の温かさが、
体中に染み渡っていく。
一分でも一秒でも長くこうやっていたい。
15年もの長い空白を埋めることができるまで、
ただずっとこうやっていたい…
博子…
どれくらいこうしていたのだろう。
玄関のチャイムが鳴る。
それが合図であるかのように、
俺たちはゆっくりとお互いから離れた。
濡れた睫毛が切なく光る。
おまえの唇が、
まだ何か言いたげに震えた。
もういい、博子。
もういいんだ。
俺の指が言葉を遮るように、
その柔らかな唇にそっと触れる。
「幸せにな」
なあ、博子。
ずっと思ってたんだ。
おまえのそばにいたかった、って。
おまえを守りたかった、って。
おまえと笑っていたかった、って。
おまえに一度でいいから面と向かって
「愛してる」、そう言いたかった、って。
俺は、涙で濡れた冷たい頬に唇を寄せた。
最初で最後の、哀しいキス。
俺たちの想い出が、
まるで風のように駆け抜けた。