つむじ風。

直人が廊下で待っていた。

なかなか出ようとしないおまえの背を、俺はそっと押す。

「あとは頼んだ」

直人にそう言うと、
またおまえは泣き出しそうな顔で振り向く。

「新明くん…」

もう行け…

俺はドアノブに手をかけた。

絡み合った視線を断ち切るかのように、
ゆっくりとドアを閉める。


博子、今まで…

「ありがとう」


声にならなかった。

喉が焼け付くように痛んで…。


ガチャン…


冷たい、とてつもなく冷たい音だった。

俺たちをいとも簡単に引き裂いた、たった一枚の扉。

「…くそっ」

今ここを開けて飛び出せば、
おまえを抱きしめることができる。

だが、それはできない。

おまえをあの人のところに返さねばならない。

俺はドアから離れた。
断腸の想いで…


「じゃあな…博子…」
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