つむじ風。
事務所の階段を下りて外に出ると、
眩しい太陽の光が目に射し込んでくる。
胸元のサングラスを取り出す。
ふと、いつもは気にも留めない自販機に目がいった。
お、あるじゃねぇか、あれ…
今まで何回も何百回もこの前を通ったのに、
どうして気がつかなかったのか。
「亮二さん?」
無意識のうちに立ち止まっていた俺を、
直人が不審そうにのぞきこむ。
「ちょっと待て」
そう言って、確かポケットに小銭が…と思い出す。
指先に冷たい硬貨の感触と、
柔らかい布の感触。
「おまえらも好きなもの選べよ」
「ラッキー!」
浩介、やっぱりおまえはガキだな。
「さっさと決めろよ」
俺は小銭を入れると、
赤く点灯したボタンのひとつに手を伸ばした。
あの柔らかな声が耳をかすめる。
『なんでミルクコーヒーなの?
カフェオレじゃだめなの?』
バカか、おまえ。
全然違うだろ。
飲んだことねぇのかよ。
口許が久しぶりに緩む。