つむじ風。

逃げてゆくその背中が、ぼやけた。

俺の胸が地面にたたきつけられる。

「亮二さん!」

抱き起こしてくれた直人が、半泣きで俺の名を呼ぶ。

なんだよ、そんな顔すんなよ。

まるで俺が、助からないみたいじゃねぇか…

そして俺は自分の腹を見た。


…ああ、これはもう無理…だな…


とめどなく溢れ出てくる血を見て、
そう思った。


情けねぇなぁ、俺。

ここで終わりかよ…
おまえにあんなにカッコつけたのによぉ…

腹からは真っ赤な血が湧き出てくる。

その血の色が、
俺を紅に染まる川面へと導く。

『新明くんの右手、蝶が留まってるみたい』

センスねぇなぁ、おまえ。
もっといいものに喩えろよ。

何だか可笑しくなって、空を見上げた。

その透き通るような青が、
次は俺をあの海へと連れて行く。

『取ってサングラス。
こんなのかけてたら、海の色も空の色もわかんないじゃない』

ほんっとにおまえはいちいちうるせぇやつだな。

俺には眩しすぎるんだよ、おまえも…こんな世界も…

あまりに眩しくて、俺は目を閉じた。

< 187 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop