つむじ風。
「…もう言ったのか?引っ越すこと」
「…いや」
「…ちゃんと言えよ」
「わかってるよ!いちいちうるせぇな」
「そうだな…」
しばらく俺たちは無言だった。
「…そうだなぁ、女の子が喜ぶ物といえば…」
ギィギィと椅子の背もたれを鳴らしながら、天井を見上げた兄貴はアクセサリーがいいんじゃないかって言った。
だけど俺はそうは思わなかった。
おまえにそんなものは必要ない。
そんなものをつければ
かえっておまえがくすんでしまう。
次の休み。
街を一人でブラブラした。
兄貴が暇だからついて行ってやる、
そう言ったが、断った。
立ち並ぶ店は、ホワイトデー一色だ。
おまえに似合うもの…
全く頭に浮かんでこない。
何をやっても
おまえは喜んでくれる…
それはわかっていた。
ただ、これ、というものが見つからない。
そう、俺が納得できるものがない。
何となく大通りから一本裏道に入った。
ひっそりとしている。
こんなとこにはねぇだろうな…
そう思いながら、
俺は人通りのまばらな裏通りを歩いた。