つむじ風。

ふと小さな宝石店が目につく。

本当に小さくて、薄汚れた屋根や壁。

一日に客が一人でもいればいいほう、
そんな店だ。

だけど、ショーウィンドウだけは一点の曇りもない。

引き寄せられるように
俺はそのショーウィンドウに近寄った。

まばゆい光を放ちながら、
宝石が整然と並んでいる。

そんなのはどうでもいい。

俺が釘付けになったのは
小さなガラスの白鳥。
つがいだ。

たわむようなしなやかな首元には
青いリボン、赤いリボンが
それぞれに巻きついている。

優しい光を反射させながら
その二羽が俺を惹きつけた。

これがいい…

そう思った。

白鳥の黒い瞳が、おまえみたいだ。


「君のような若い子が
うちの店に興味を持ってくれるなんてね」


低くて穏やかな声に俺は我に返った。

そこには店からひょっこり顔だけを出した、
白髪で白髭の…

まるで季節はずれの、サンタみたいなじいさんが俺を見ていた。

「いや…俺は…」

慌ててポケットに突っ込んだ手を出す。

じいさんはそんな俺を見て笑うと手招きした。

本当に俺に話しかけたのか…
あたりをキョロキョロしてみる。

だけど、俺以外に誰もいない。

ためらう俺に、じいさんは
「いいから、いいから」と
笑いながら再度手招きした。
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