つむじ風。
店内は思ったより綺麗で、
ショーケースはやはり念入りに磨かれていた。
何より、春冷えで凍えた身体には
店の中の暖かさはありがたい。
「何を見てたんだい?」
ずり落ちためがねを再三あげながら、
じいさんは訊いた。
「いえ…」
うつむく俺にまた言った。
「あのガラスの白鳥だろ?」
「……」
わかってんなら、いちいち訊くなよ。
心のなかで思わず舌打ちする。
「悪いが、あれは売り物じゃなくてね」
「そう…ですか」
正直がっかりした。
せっかくおまえにぴったりだと思ったのに。
「知ってるかい?
白鳥のつがいはね、どちらか一方が死ぬまで、決してお互いの傍を離れないんだよ」
じゃあ、ますますダメだな。
俺はおまえの前から姿を消すんだからな。
だったら、こんな店にもう用はない。
俺は踵を返した。
「あれは妻がヨーロッパに行った時に買ってきてくれてね」
「…へぇ」
早く出たかった。
俺には時間がないんだ。
じいさんの思い出話を聞いている暇はない。
「ずっと一緒にいられますようにってね、
メッセージカードがついていたよ」
早く終わんねぇかな…
そんなことを考えていた。
「だけど、これをくれた後すぐに
妻は交通事故で亡くなってね」
なぜだろう。
ドアノブにかけた手が自然に落ちて、
俺はじいさんを振り返った。