つむじ風。
「好きな人にあげようと思ってたのかい?」
不思議なじいさんだった。
俺は小さく、そして何度も頷いた。
「あげるよ、君に」
「でも…」
じいさんは通りに面したショーケースを開けると、包み込むようにそのガラスの白鳥を取り出す。
俺はそれを黙って見ていた。
「君は綺麗な目をしているね」
「は?」
「その人に…
好きな人に言われたことはないかい?
素敵な目だねって」
言われたことなかったな。
どうなんだよ、博子。
そう思ったこと、あるのかよ?
「…ない、ですね」
じいさんはおかしそうに笑った。
「きっと照れて言わないだけだよ。
私は何十年も宝石を扱ってるからね、
光り物にはうるさいんだよ。
君は本当に澄み切った、美しい瞳をしている。
人柄がでるからね、目というのは。
だからこれを君に譲るよ。
君に想われてる人も、きっと素敵な人に違いない。
その人がもらってくれるなら、喜んで譲るよ」
そう言ってじいさんはガラスの白鳥を丁寧に磨き始めた。
「あの、俺いいです、それ。
そんな意味があるなんて知らなかったから」
じいさんは手を止めて
とぼけたような顔で俺を見た。
「そんな意味?」
「その…白鳥のつがいは、
ずっと一緒にいる…なんてこと」
「君の想う彼女とは、
ずっと一緒にいられないのかい?」
俺はうつむいて「はい」と答えた。