つむじ風。
今日はおまえの中学の卒業式だ。
俺はおまえの家の前で帰ってくるのを待っていた。
今日が最後の日になるだろう。
なぁ、博子。
怒るなよ。
今度こそ俺は
おまえから卒業する。
でもいくら待ってもおまえが帰ってくる気配がない。
ったく…
最後の最後まで
俺を待たせやがって。
どうせ、友達としゃべり倒してるんだろうよ。
俺はポケットに手をつっこんだまま、
空を見上げた。
早く帰ってこいよ…
いや
まだ帰ってくるな…
正反対の気持ちがせめぎあう。
今日こそは言わねばならない。
おまえの悲しみに歪む顔を
見なければならない。
男は女の涙に弱いって、よくいう。
あれはあながち嘘じゃない。
俺だって現に今怖い。
おまえの涙を見なければいけないことが。
「新明くん?」
辺りが暗くなってようやくおまえの声がした。
俺はゆっくり息を吐いた。
「飯に行くぞ」
おまえはウキウキしながら付いて来た。
まるで人懐っこい子犬みたいに。
そんな博子を背中に感じながら、
俺の心はかきむしられるように痛む。