つむじ風。

いつものように俺たちは川の字になって寝た。

おふくろは寒さのせいか、
寝付くまでずっと咳をしていた。

俺と兄貴がかわるがわる背中をさすると、
「ありがとね、本当にありがとね」
と、うわ言のように繰り返す。


俺はずっと起きていた。

時計を見ると
午前3時を少しまわるところだ。

商売人の朝は早い。
あと1時間もすれば、あいつらも起きてくる。

俺はふとんからそっと抜け出すと、
上着に袖を通した。

そして貯めていたバイト代を机の引出しから出すと、ポケットにねじ込む。

その時、手に微かに触れるものがあった。

そう、あの小さな巾着袋。

『新明くん、がんばってね!』

博子、
この時ほど俺は
おまえのその言葉を忘れてしまいたい、
そう思ったことはない。

もう頑張れない…
頑張れないんだよ、博子…


兄貴に目をやると、
ぐっすり眠っていた。

俺はハンガーにかけてあった兄貴の上着から財布を抜き取った。


すまない…兄貴

そしてそっと襖を開けると、
何も知らずに眠る二人を見下ろした。

開いた襖の隙間から、
冷たい空気が音もなく入り込んでくる。
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