つむじ風。
「あー!
ここまで来たら大丈夫だろ」
男は駅前の広場のベンチに腰を下ろした。
ここも大勢の人でごった返している。
キョロキョロあたりを見回す俺が不安気に見えたんだろう、
「かえって人混みのほうが見つかりにくい」
と彼は言った。
言われてみれば、そうだ。
「おまえ、名前は?」
「……」
「俺はツヨシ。
族のリーダーやってんだ」
と簡単に自己紹介した。
「今日はさ、ムシャクシャしててさ。
あいつら使ってケンカふっかけようって…」
「で、俺に目をつけたのか」
「すまん、本当につまんねぇことしたよ。
でも、おまえ、気に入ったかも」
「は?」
「根性あるよ」
ねぇよ、そんなもん。
あったら、今頃こんなとこにいない。
「明日、来いよ。走るからさ」
ツヨシと名乗った男は
そう言ってある場所を告げた。
「呼び出してボコボコにしようってわけじゃねぇよ。
勘違いすんなよ。
まぁ、行くとこなかったら、来いよって話」
「……」
「じゃ、まぁそういうことで。
今日はごめんな」
「……」
俺は釈然としない。
理不尽な理由でこんなに痛めつけられて、
「ごめんな」で終わりかよ。
うつむく俺の肩をポンポン叩くと、彼は言った。
「あ、そうそう。
名前聞いてなかった、名前」
「…亮二」
「リョージね。オッケー。
また明日な」
手をヒラヒラ振りながら、彼は人混みに消えていく。
軽いやつ…
でもどこかしら魅力的な男だと思った。