つむじ風。
なぁ博子。
おまえを最後に見たあの日から

俺は、俺自身のために
おまえのことを思い出さないようにしてきた。

でも、今
無性におまえを想う。


俺はその女についていった。
コノミという24歳のホステスだ。

ホテルの部屋に入るやいなや、
女は俺をベッドに押し倒した。

シミだらけの天井だ。
そういや、外装も安っぽかったな。
マットレスも固い…

そんなことを考えているうちに、
俺は上半身を裸にされていた。

コノミが髪をかきあげ、
横たわる俺にまたがる。

「初めて?」

俺は答えなかった。

ただ天井のシミを見ていた。
雨雲に見えた。

女の唇が俺の額、頬へと下りてくる。

何も感じない。

お互いの唇が触れ合った瞬間だけ
やけに生暖かかったのを覚えている。


だからといって
その初めての感触に胸が躍るわけでもない、

切なさに込み上げてくるものがあるわけでもない。

ただ、俺の顔にかかる女の長い髪が
うっとうしい…

そう思った。


なぁ博子。

また今夜から…

俺は、俺自身のために
おまえを思い出さないようにする…

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