つむじ風。
ほんっとにおまえはよくしゃべった。

よくそんなに話すことがあるもんだと
呆れ半分、感心半分だった。

でも耳障りだなんて思ったことはない。

おまえの声は
高すぎず
低すぎず
その上柔らかくて、心地いい。

「新明くんの右手、蝶が留まってるみたい」

「蝶?もっといいものにたとえろよ」

「蝶だっていいじゃない。アゲハ蝶とか…」

俺の右手の甲にはアザがあっただろ。

覚えてるか?
三角形みたいなのが二つ並んだアザだ。

生まれつきあったらしい。

ガキの頃はあのアザが嫌だった。

色だって茶色だしな。

お世辞でもきれいとは言えないだろ。


それをバカなおまえは
「蝶」だと言った。
「アゲハ蝶」だと。

あの声で。

そんな優雅なもんかよって思ったけど
不思議だな。


おまえにそう言われると
アザが嫌いでなくなった。

なぁ博子。

あの頃、俺は
おまえに与えてもらうばっかりだった。

すさんで、
道を反れてしまいそうな
俺の心を
おまえの笑顔が
必死でつなぎとめておいてくれた。

いつしかおまえは
ただの「友達」なんかじゃなくなってた。

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