つむじ風。

俺は立ち止まった。
若い連中に少し苛立つ。

何度同じ事を言わせれば
できるようになるんだよ、おまえら。

そんな言葉を飲み込みながら、
指示を繰り返す。

連中は威勢のいい返事だけを残して
持ち場に戻っていった。

…ったく、本当にわかったのかよ。
後で電話してくんなよ。

俺は煙草を取り出し、くわえる。

リサはまだ来ていない。

何とか間に合ったか…

煙草の先が赤く染まったのを見て、
ライターを持った手をおろす。

その時、懐かしい声が
俺の名を呼んだ。


「新明くん!」


幻聴だと思った。

おまえへの想いを抑えつけすぎて
おかしくなったんだ、そう思った。

だけど、俺の意に反して、
この目はその声の主を探す。

…博…子、なのか?

大勢の人の波の中で
俺は一人佇む女を見つけた。

息を呑む。

…博子!


「新明くん」
もう一度その涼やかな口元が動いた。

…どうして

俺は動揺していた。

圭条会でも一目おかれている
この冷静な俺が、だ。

煙草をふかす。
平静を装うために。
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