つむじ風。
でも離れるときは来る。

俺は小学校も剣道教室も卒業した。

剣道教室での最後の練習日。

あん時、おまえ目にいっぱい涙ためて
面をかぶってただろ。

俺を相手に練習する時、
一生懸命泣くのがまんして
顔が歪んでたぞ。

ぶっさいくな顔だった。

ほんっとにブスだった、
あん時のおまえ。

あまりのブサイクさに
俺は何も言えなかった。

俺が何か言えば
おまえはもっとブスになってただろ。

そして俺は
おまえからも「卒業」しなきゃいけねぇって
そう思ってた。

俺たちはその日、
一言も交わさず道場を後にした。


中学生になったものの
親父が死んで、
うちは経済的に苦しかった。

まして剣道部に入部するからと言って
新しい防具や胴着は買えない。

でも剣道だけは続けたかった。

俺のすべてだったから。

だからどんなに「貧乏」と言われようと
耐えてきた。

そんな口をたたく奴らを
ぶん殴りたい衝動にかられた時もある。

でも握りしめた右手を見るたび
博子の声がした。

「蝶みたいだね」って言うあの声が
「大丈夫だよ」に聞こえた。


そう簡単に
おまえから「卒業」なんてできやしなかった。


会いたかった。


だけど、俺にも変なプライドがあって
小学生になんて会いに行けるかよって思ってた。


ランドセル背負ったおまえに会いに行って
誰かに見られてみろ、
バカにされるに決まってる。


おまえが中学生になるまでの
1年間。

長かった。

とてつもなく長かった。

あんなに月日が流れるのが
遅いと感じたのは
後にも先にも



あの時だけだ。


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