つむじ風。
当日、俺は伝えていた時間より30分も早く、待ち合わせ場所に来ていた。
初夏とは言うが、朝夕はまだ少し肌寒い。
俺は目の前を通り過ぎていく人の群れを
なんとなく見ていた。
きっとおまえは来る。
全てはそこから始まる。
だが、今までにない困難な「指令」だ。
学生が目立っていた駅前の人の流れが、
いつしかスーツ姿の帰宅を急ぐ会社員へと変わっていた。
約束の18時をとっくに過ぎている。
出掛ける前に交わした会話を思い出していた。
「何時にお迎えに行けばいいでしょうか?」
と直人。
「そうだな、日付が変るまでには切り上げる」
上着に袖を通しながら、俺は何の気なしにそう言った。
「え?」
浩介が驚いたように声を上げる。
俺が睨むと、小さな声で言った。
「いや、あの…いつも通り、フルコースかと思ったので」
「今日中には終わらせるっつって言っただろ!」
「はい!すみません!」
思わず舌打ちした。
浩介に対してではない、自分に対してだ。
ナーバスになってる。
「すまない、怒鳴って。
今回は警察関係者がターゲットだ。
慎重に進めたい。
他の女とは別だ、おまえらも気を引き締めろ」
「わかりました」と直人が淡々とした口調で頷いた。
時計は19時を過ぎている。
溜息を一つついて、煙草を取り出した。
くそっ、来ないか…
次はどうやって接触するかな…
火をつけて、ふと顔をあげた瞬間だった。
見覚えのある後ろ姿が、駅の改札へと向かっていく。
俺は煙草を投げ捨てると、その方向へ走り出した。