つむじ風。
「ちょっとすみません!」
人をかきわけながら進む。
…博子
気のせいだったのか、見当たらない。
改札の前で再度あたりを見回す。
この時俺は、自分の息がきれていることすらわからなかった。
博子、どこだ…!
留まることなく流れていく人の群れに、
目を凝らす。
前後左右に、全神経を集中させる。
でも、おまえらしき女は見つけられなかった。
見間違いかよ…笑っちまうな…
自分を落ち着かせるように、
俺は目を閉じて、息を吐いた。
もう、来ないな…
そう思って目を開けたその先に、
俺はおまえの横顔を見つけた。
…博…!
ちょっ…ちょっと、待てよ!
必死に人を押しのけ、
俺は改札機に伸びるその細い手首をつかんだ。
「これ以上俺を待たせるな」
驚いて見上げたその目が、充血していた。
なんで、そんな顔してんだよ!
改札を通る人間が、
迷惑そうに俺たちを見る。
「来いよ!」
「あの!私…」
「黙ってろ!」
おまえを引きずるようにして
改札口をあとにした。
何度も「離して」という弱々しい声が背後から訴えてくる。
聞こえないふりをして、俺はかまわず歩いた。
腹立たしかった!
おまえのその顔が…!
俺の決心を鈍らせそうで…