つむじ風。
人通りの少ない場所で、俺は言った。
「来てくれてよかった」と。
もうこの時には自分を取り戻していた。
圭条会の新明亮二に。
「もう来ないかもって、半分諦めてた」
そう呟きながら、足元に目をやる。
その方が、シリアスな雰囲気が出せる。
「新明くん」
と、申し訳なさそうな顔をおまえはした。
とりあえず、駅前通りに出る。
小洒落た店もこの時間だと閉店間近だ。
俺はふっと笑ってしまった。
後ろから付いて来るおまえは気付かなかっただろうけどな。
「来るつもりはなかった」とおまえは言った。
そうだろう、その格好だもんな。
初めから俺に会うつもりなら、
そんな近所に買い物に行くような服装で来ない。
迷って迷って、衝動的に家を飛び出して来たんだろうな。
それが俺に自信を持たせた。
こいつは…必ず俺に堕ちる…と。
閉店準備をする一軒の高級ブティックのガラスをコツコツ叩いた。
ここなら多少の無理をきいてくれるだろう。
「彼女に合う服と靴をそろえてもらえないか」
誰もいない店内で、おまえの着替えを俺は一人で待つ。
駅前でおまえを見つけた時…
あの時俺は…
汗を感じて、顔を撫でる。
俺は…本気でおまえを探してた。
自分の「立場」も忘れて…
静かに首を横に振って、気持ちを入れ替える。