つむじ風。
しばらくすると、ベージュのワンピースを来た女が目の前に現れた。
俺を見ると、恥ずかしそうに俯く。
これからが本番だ、博子。
お手柔らかに、なんて言葉は
俺の中には、ない。
レストランで食事をした後、
車のキーを取り出して、俺は言った。
「家まで送ろう」
だが、断られた。
さして驚きも、焦りもしない。
おまえのことだ、
そう言うと思ってたよ。
だが、俺はあえてここでは強く押さず、あっさり引く。
大丈夫だ、この場で無理をしなくても。
計算された会話と、
それに見合った表情、時折見せる笑み。
それらが完璧だと思わせてくれる反応を、
おまえは見せてくれた。
ただ、別れの言葉一つで、
「次」があるかどうかが決まる。
「あの…じゃあ私これで」
「ああ」
「おやすみなさい」
歩き出したその背中に俺は呼びかけた。
「博子」と。
だが、聞こえているはずなのに
振り返ろうともしない。
俺は思った。
今夜は俺の勝ちだ、博子。
おまえは完全に心を乱されている。
それを今、必死に取り繕おうとしている。
そして言った。
おまえの心をもっと揺さぶるであろう言葉を。
「またな」
思わず振り返ったおまえの顔を見て、確信したよ。
次もきっと俺に会いに来るって、な。