つむじ風。

博子。

おまえが中学の剣道部に入ってきて
俺がどんなにホッとしたか知ってるか。

以前と変わらず
おまえはあの笑顔を俺にくれた。

俺もうぬぼれて
博子には俺しかいないんだって
勝手に思ってたけど、
それで間違いないだろ?

まぁ、間違ってても
そういうことにしといてくれよ。


それ以来、
おまえと一緒に学校から帰るのが
好きだった。

歩くのは遅いし
相変わらずよくしゃべるし
相手すんの、大変だったけどな。

後ろから聞こえる
おまえの声が
俺を包み込んでくれるようだった。

だから俺はおまえの前を
歩きたかった。

だからおまえの前を歩いた。


周りが俺たちのことを
いろいろ噂してたのは知ってる。

ああ、そう言えば
おまえも見てたんだよな。

道場の裏で
俺が同級生ともめてたこと。

あいつらは絶対に許せねぇ。

一発くらい殴りたかったが、
運悪く、邪魔が入っちまったなぁ。

それでおまえは言ったよな。

哀しい顔で。


「もう私のこと待たなくていいよ」って。


「おまえが嫌なら待たない」


そう俺は答えた。


俺は何を言われてもいい。


ただおまえだけは


博子だけは

あんな汚い言葉で
穢されたくなかった。


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