つむじ風。

待ち合わせ場所に着くと、
一人の女が自分の姿をショーウィンドウに映して、髪を整えているのが見えた。

金太郎のくせに、何やってんだよ。

内心笑いながら、俺は女の後ろに立った。

「今日は遅れなかったな」

昔と変わらないボブヘアを揺らせて、
おまえは振り返った。

その姿に…

…きれいだ。

素直にそう思った。
だが、口をついて出てきた言葉は「まぁまぁだな」


「たかがラーメン一杯で、なんでこんなに待たなきゃなんねぇんだよ」

長い行列の、やっと真ん中あたり。

「もう少しだから」

そうなだめる顔は、どこかしら嬉しそうに見える。

昔の俺を思い出してるんだろう。
そして変わらないな、とでも思っているのか。

残念だな、待つことには、もう慣れてる。
いろんな類の女を相手にしてきたからな。

…だから、そんなふうに笑いかけんなよ。

目をそむけたくなる。

俺と違って、
おまえはちっとも変わってない気がする。


やっとありつけたラーメンの味も
よくわからなかった。


だけど、おまえは何回も俺にむかって
「おいしいね」って。

昔からいやしかったからな。
何食べてもうまいんだよ。

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