つむじ風。

店を出た後も、
俺は機嫌の悪いフリをした。

そうとは知らずに、
おまえは困ったような、
それでいて懐かしそうな目で俺を見る。

「さて、これからどうする」
俺はその視線から逃れようと、周りを見回した。

「ねぇ、この辺りのお店、見て回ってもいい?」

まるで観光だった。

「私ね、あんまりこんなところまで出掛けて来ないから。
結構近いのに、変でしょ?
一人で来てもつまんなくて…
でも、今日はせっかく連れもいることだし。
ね!きれいなお店がいっぱいあって、何だか楽しくなるわね」

目を輝かせながら、一件一件店をのぞいていく。

「何か欲しいものがあったら、言えよ」

「何もないわ」

即答だった。

「ほんっとにかわいくねぇな、おまえ」

俺も苦笑いになる。

「でしょ?でも、本当に欲しいものがないの」

「じゃあ、なんで見てるんだよ」

「きれいだからよ」

「だったら欲しいと思うだろ、普通」

「そう?」

ショーケースをのぞきながら、自分でもおかしそうに笑っている。


そんなおまえに仕方なく俺も付き合った。

いくつかの店では、店長がわざわざ俺に挨拶しようと出てきたが、博子に気付かれる前に制した。

せっかく無邪気に楽しんでるんだ。

俺がこんな女物を取り扱う店の常連だということを、今見せつけることはない。

女という生き物は
男と一緒にいる時間は、自分だけを見ていてほしいものだ。
少しでも他の女の影がちらつくと、たちまち不機嫌になる。

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