つむじ風。

「次、ここね」

声がした方を振り返ると、おまえはさっさと大型書店に入っていった。
キョロキョロしながら、広い店内を進んでいく。

溜め息を一つ、俺は後をついて行く。

確か、本が好きだったな…

「ねぇ、私たちが子どもの頃って、こんなに大きな本屋さんなんてなかったよね。
商店街にある自宅を改造したみたいな本屋さんで…
お店になかったら取り寄せてもらって…
届くまで、すごく楽しみだった。
それはそうと、これだけ広いと、
欲しい本もなかなか見つからないわね」

「おまえ、原始人みたいなこと言うなよ」

「原始人?その頃に本屋なんてないわよ。
失礼ね、ほんのちょっと昔の話をしただけじゃない」

ちょっと口を尖らせながら、
お目当ての本を探している。

「何を探してんだよ?」と訊こうとした時、

「あ!これ」
本棚を指差して、満面の笑みでこっちを見る。

「これ、覚えてる?」

そう言って、長く細い人差し指で、
「雪融け」と書かれた文庫本の背表紙を引き出した。

懐かしそうに手にとり、パラパラとページをめくる。

「好きだったのよ、この小説。
特に出だしが…」

ああ、覚えてる…

記憶が嫌でも15年以上前に戻ってゆく。

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