つむじ風。

俺の通う高校と、博子の通う中学は目と鼻の先だった。

よく俺は中学校の校門前で博子が出てくるのを待たされたが、ある日、いつもとは違っておまえが俺を待っていた。

なにやら手のひらサイズの文庫本を読みながら。

「珍しいじゃねぇか、待ってるなんて」
「…ん…」
「帰るぞ」
「ん…」

こいつ、俺の話を聞いてねぇな。
そう思って先に帰ろうとした。

足を踏み出した途端、急に後ろに引っ張られた。

「おい、なんだよ」

おまえ、俺の学生服の裾をつかんで離そうとしなかった。

そしてこう言ったんだ。

「あともう少しで終わるの。
最後まで読ませて…」って。

「ったく、なんだよ、それ」

俺はおまえと並んで壁にもたれて、じっと待ってた。
夕焼け空を見ながら。

なんだよ、結局俺が「待つ」んじゃねぇか…


その帰り道。

「この本、すっごく面白かった。
新明くんも読んでみて」

「どうせ、恋愛小説だろ?遠慮する」

「ただの恋愛ものじゃなくて、サスペンス要素たっぷり。好きでしょ?こういうの」

「別に」

「でね、でね」

おまえはひたすらしゃべった。

俺が聞いていようがいまいが、おかまいなく。

「大学生の登山部の男女6人が、交際を巡ってトラブルになるんだけど、殺人にまで発展しちゃうの。その場所が、遭難してやっとたどり着いた廃業したペンションなのよ。
その犯人を主人公が捜していくんだけど…読むでしょ?」




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