つむじ風。
おまえといると
あっという間に時間が経つ。

学校の廊下でばったり会うと、
おまえはいつも満面の笑みで手を振る。

やめろよ、恥ずかしいだろ。

俺はいつも簡単に手を上げるだけだったが、それでもかなり人目を気にしながらやってたって知ってたか?

知るはずもないよな。

あんな弾けた笑顔を向けるんだもんな。

まぁ、悪い気はしなかったけどな。

俺はまたおまえを置いて
先に中学を卒業しなくちゃならない。

おい、博子。

そういえばおまえ
一度も俺を「先輩」と呼ばなかったな。
これだけは納得いかねぇな。

卒業式の何日か前から
おまえが俺に何か言いたげなのは
わかっていた。

でもおまえ
言わねぇんだよな。

余計なことはなんでも言うくせに
肝心なことは言わねぇんだよな。

やっぱりまたブサイクな顔してた。

おまえのあのブサイクな顔をみると
俺だって、何も言えなくなるんだ。

生憎、不器用なんでな。

思ってもないこと口にして
その黒目がちな瞳から
涙がこぼれるのが、怖かった。

おまえに何て言っていいのか
わからないんだ。

あの頃のおまえは
強情というか、意地っ張りというか

俺の前では、
絶対に泣かなかった。

だから余計に
俺の言葉で泣かせたくなかった。

「また会えるから心配すんな」

たったこれだけのことが
言えねぇんだよ、俺は。

悪かったな、博子。

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