つむじ風。
「そうですか、父をご存知で」
「ええ、まあ…」
「へんてこりんで、おかしなジジイだったでしょ?」
俺は思わず笑ってしまった。
確かに変な、
いや不思議なじいさんだった。
この店主はあのじいさんの一人息子で、
県外で同じように宝石を扱う仕事に就いていたらしい。
しかし、5年前にじいさんが亡くなって、
こちらに戻って来たという。
「まあ、この店を閉じても良かったんですが、親父の遺したものを無碍にするわけにもいかず、こうやって細々とリメイクや修理をしながらやっています」
そう言って、薄くなった頭をかいた。
俺は店内を見回した。
寒空の下、白鳥のガラス細工に見入っていた俺に、あのじいさんが手招きした姿が懐かしい。
『好きな人にあげるつもりだったのかい?』
ずれた眼鏡をしきりに持ち上げる。
悪いな、じいさん、
せっかく譲ってもらったのに、
結局渡せなかったんだ。
『彼女とは一緒にいられないのかい?』
あの時の質問が、今の俺にも当てはまる。
ああ、そうなんだ。
今回もまた一緒にいられないんだ。
そういう運命なんだよ、俺たちは…