つむじ風。

一つのショーケースに目が留まる。

それだけ特別に店の中央に置いてあったから。

のぞくと某ブランドメーカーの
一粒ダイヤのネックレスだった。

このブランドはよく女に買ってやるから知っている。
だがこんなデザインのものはあっただろうか?

そんな疑問を店主にぶつけた。

「ああ、これは20年も前のものですよ。
以前勤めていた宝石商で手に入れたんです。
シンプルですが、何か惹き付けるものがあるでしょう?
だから今もこうして目立つところに飾ってるんです。
見れば見るほど気品に満ちている」

「ええ」

博子、おまえみたいだ、
そう思った。

豪華さ艶やかさはないが、
清楚な美しさだけは誰にも劣らない。

「大通りにはお洒落な店がたくさんありますからね。
こんなところ誰も来ないし、見向きもしない。
この店には不釣合いな一品ですよ」

「これをいただけませんか」

「は?」

唐突な俺の言葉に、店主は豆鉄砲をくらったような顔をした。

「売っていただきたい」

「え、ええ、それはもちろん」

そう言って、ショーケースからそのネックレスを取り出した。

「プレゼント用にお包みしてよろしいですか」

「…いえ、簡単に包むだけで結構です」


店を出た途端、笑いがこみ上げてきた。

無駄な買い物だったかもな…

でも手に入れたかった。

清楚な美しさを放つ
おまえのようなこのネックレスを…
俺のものにしたかった。

おまえの代わりとして、手元に置いておきたいと思った…


もう心に迷いはない。

携帯を取り出すと、
「加瀬博子」おまえの名前を呼び出し、
発信ボタンを押した。

「…俺だ」
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