たった1ヶ月の恋

声を出しちゃダメ。

そう思っていても、思わず悲鳴を上げてしまいそうなほどのおぞましい光景が、目の前に広がっている。


死神はこんな中を通らなければ、死神界に帰れないんだ。何となく、感情がない理由が分かった。

こんな光景をずっと見ていると、慣れてしまうんだろう。人を殺すことに、躊躇いがなくなる。

意外と、殺される人間よりも、死神の方が何倍も苦しい思いをしているのかもしれない。


ソッと目を閉じて、この暗闇の先を待つ。うめき声が、ひっきりなしに聞こえてくる。

そのうめき声がピタリと止んだとき、視界がほんの少し、明るくなった気がした。


「海、目開けていいぞ」

イブの声が、小さく耳に届く。ゆっくり目を開けると、そこはもう見たこともない世界だった。

「ついて来い」

さっきの暗かった世界から解放され、死神界に着いたのだ。さっきよりは明るいが、人間が住んでいる世界ほど明るくはない。


「ねぇ、イブ。さっきの暗いとこにいた幽霊って、魂狩られた人たちなの…?」

「あぁ、こっちの世界に連れてこられるときに、声出しちまったやつらだ。」


あの場所で、声を出すとあんなことになってしまうのか。あの時いたあの赤ちゃんは、きっと泣いてしまったからあの場所にいたんだろう。


赤ちゃんなんだから、声を出さないなんて不可能に近い。声を出すなと言われても、理解出来ないだろうから。


「海、下向け」

そう言われてパッと下を向く。いつの間にか周りには死神が普通に歩いていた。
< 103 / 202 >

この作品をシェア

pagetop