To.カノンを奏でる君
 祥多は葉山を睨みつけ、教室を後にした。

 息を切らしながらも、立ち止まる事なく廊下を歩く。


「うぉーい、祥多ぁー」


 後ろから追いかけて来る声に振り返ると、チュウの姿があった。

 祥多は立ち止まり、チュウが来るのを待つ。


「どうした、チュウ」


「一緒に帰ろーぜ。方向同じじゃん。葉山とは嫌でも、自分とならいいだろ?」

「……おう」


 祥多は笑みを零す。美香子と帰るのは嫌だったが、一人で帰るのは実を言って心細かったのだ。

 二人は歩きながら、会わずにいた数年間を埋めるように言葉を交わす。


「変わんねぇなぁ、祥多」

「チュウも変わんねぇな。一人称が自分って言うのも」

「何だろーな。自分って言う方が性に合ってんだ」

「ま、人それぞれだしな」


 正面玄関で上履きから靴に履き替える。


 まだ二月上旬。冷たい風が二人の間を吹き抜ける。


「寒っ」

「コートくらい持って来いよ」

 自身を抱き締め、寒さを表すチュウに祥多は呆れる。

 祥多はきちんとコートを羽織っているのだ。


「そんな女々しくコートなんか着てられるかぁ!」


 強がるチュウに、祥多は笑う。


「ったく、変なとこで意地っ張りだよなぁ」


 玄関から出ると、より一層寒さが身に染みる。


「なぁ、祥多」

「ん?」

「祥多は花音の事が好きなんだろ?」
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