To.カノンを奏でる君
「ワガママだよねぇ…。好きにならないって約束なのに…嫉妬するなんて…っ」


 最低だと泣く花音に、直樹は何も言えなかった。

 何でこんなにも苦しい思いをしなければならないのだろう。ただ好きなだけなのに。


「ごめんね、ノンノン…。力になれなくて…ごめんね」


 大切な女の子が泣いているというのに、自分は何も出来ない。

 花音が泣く度に、自分の無力さに苛立つ。何も出来ない自分が嫌になる。


「そんな事ないよ」

「え?」

「何も出来ないなんて言わないで、」

「ノンノン?」

「直ちゃんがいなかったら、私引き籠ってたよ」


 あははと涙を拭い、笑みを見せる花音。


「直ちゃんにはいつも感謝してる。つらい時はいっつも直ちゃんが傍にいてくれた。だから自分を責めないで。――相談する度にが自分を責められたら、私は誰に弱音を吐けばいいの?」

「ノンノン……」

「ね?」


 慰めようとかける言葉を探していたのに、逆に慰められてしまった。しかも、救われた。


(情けないなぁ…)


 苦笑して、花音の頭をわしゃわしゃと撫で回す。


「アタシが慰められてどーすんのよ」

「あはは。大丈夫、私もなんか元気出た」

「何だかなぁー」

「直ちゃんは直ちゃんらしく、ね!」


 花音の笑顔にほだされ、直樹は笑った。

 笑うしかなかった。結局、花音は自分で立ち上がる。人の助けなど必要ない。
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