To.カノンを奏でる君
「直ちゃん。私には直ちゃんが必要なの」


 真剣な顔で花音は直樹に訴える。


「忘れないでね。直ちゃんがいなくなったらグレてやるから」

「……ぷっ。何それー」

「本気だよ?」

「アタシ東京行くんだけど」

「実質的な距離じゃなくてっ」

「ハイハイ、大丈夫よ。例えノンノンがアタシを嫌っても、アタシからノンノンを嫌う事は一生ないから」

「私も直ちゃん嫌うなんて事一生ないよ!」

「ありがと」


 まるで心を読まれたように、直樹が欲した言葉をくれた花音。直樹は泣きそうになるのを懸命に堪え、笑みを浮かべた。

 花音も満足そうに笑む。


「明日は祥ちゃんと商店街行こうね」

「うん」


 二人はそうして、再び歩き出した。















 翌日の朝、祥多は花音を家の前で待ち伏せ、会った早々に謝った。

 ぽかんと呆ける花音に、祥多は美香子との事だと説明した。すると花音は吹き出し、何で謝るのかと訊いた。


 まさか笑われるとは思っていなかった祥多は唖然としながらも、取り敢えずいつも通りに戻った花音に安心した。

 そしてまた前日同様に二人で通学し、あっという間に放課後だ。


 放課後に至るまでに、美香子が何か仕かけて来るのではないかと身構えていた祥多だったが、特に絡んでは来なかった。


「さぁて。行きますか、商店街」


 直樹は楽しそうに笑っている。

 こんな特別な時、真っ先に浮かれるのは直樹だ。
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