To.カノンを奏でる君
「おー! 懐かしいな、このチョコ」

「あ、本当だ。祥ちゃんこれ好きだったよね」

「ふふ、いつも学校帰りにはそのチョコ買ってたものね」


 小学生がちらほら見受けられる屋内で、花音達ははしゃぐ。

 駄菓子屋のおじさんも全く変わらない風貌で、祥多は懐かしさに浸る。


「買い溜めしとこーぜ!」


 小さな籠にどばどばっと三十円のチョコを入れる。


「ちょっと祥ちゃん、買いすぎ!」

「そーよ、限度ってものを考えなさい」


 花音と直樹から叱られ、祥多はしょんぼりする。

 渋々チョコを戻す姿に、花音と直樹は笑った。


 チョコ購入を十個に抑えた祥多は、駄菓子屋を後にした。

 次に立ち寄ったのは寂れた本屋だ。駄菓子屋の隣の隣にある。

 入ってみると予想通り、閑古鳥が鳴いている。


「あぁ、いらっしゃい」


 目がショボショボしている老人が三人を迎え入れる。杖をつき、腰を曲げて立っている。

 こんな老人が店主であるこの本屋が傾かないのは、毎日手伝いに来ている孫のお陰だ。


「珍しい顔だなぁ」


 老人は優しく微笑む。


「体の調子は良くなったのかい」

「はい。お陰様で」


 祥多はすんなり嘘を吐き、花音を驚かせた。


「そうかい、それは良かった」


 老人は祥多の嘘を受け入れ、顔のしわが少し増える。
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