To.カノンを奏でる君
「フフン、羨ましいでしょう、タータン」


 直樹は祥多の心を読み取ったかのように笑った。

 祥多はカァッと真っ赤になる顔を隠し、動揺した。


「し、してねぇよ、嫉妬なんて!」

「あら? 誰も嫉妬とは言ってないわよ?」


 墓穴を掘った事に気付いた祥多は更に顔を赤くし、立ち上がった。


「母さんに電話して来る!」


 そう言ってポケットからシルバーのPHSを取り出した。一週間だけ持たされているのだ。

 ゆっくり歩いて行った祥多の後ろ姿を見て、直樹はにやりと笑った。


「ほーんと、タータンいびるの楽しいわぁ」


 悪戯な顔をする直樹に、自然と離れた彼女は苦笑する。


「本当に祥ちゃんと仲良しだね、直ちゃん。羨ましい」

「何言ってるの、ノンノン。タータンとノンノンの方が仲良しじゃない」

「昔はね。……でも、今は何か距離を感じちゃう」

「葉山さんのせいでね」

「違うよ、葉山さんが悪いって訳じゃなくて」

「でも実質的にタータンとノンノンの間を邪魔してるのは葉山さんじゃない」

「…………」


 言い返す言葉が見つからなかった花音は、黙り込んだ。


「少しは思ってるでしょ、ノンノンも」

「直ちゃん」

「醜い事じゃないよ。それは、人間として当たり前の感情」


 ポンポンと直樹は花音の頭を撫でる。


 花音は直樹の優しさに、少しの戸惑いの後に甘えさせてもらった。
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