To.カノンを奏でる君
 小学校に入学し、直樹は普通の男の子の格好をしていた。

 初めての小学校に緊張していた直樹。そんな直樹の緊張をほぐしたのは、隣の席の女の子だった。


「直樹君? て言うの?」


 突然声をかけられた直樹は驚き、隣の席の女の子を見た。

 肩につくくらいの艶やかな黒髪がその女の子を引き立てる。少し見惚れ、ぎこちなく頷いた。


「私、花音。よろしくね」

「え……」

「あ、嫌?」

「ううん! あの、よろしく!」

「うん」


 にっこり笑った隣の席の女の子は、直樹が見て来た女の子の中で一番可愛かった。

 笑顔がとても似合っている女の子を、直樹は初めて見た。


「直樹君て綺麗な顔してるね」


 花音が直樹の白い肌を見ながら言った。

 直樹は頬をほんの少し赤らめ、慌てて答える。


「そ、そんな事ないよ」

「ううん、女の子より可愛い」


 昔よく言われた誉め言葉。懐かしさと嬉しさが込み上げる。


「ありがとう」

「あ、笑ったらもっと可愛い!」

「花音ちゃんも可愛いよ」

「本当? 今日はね、お気に入りのカチューシャつけて来たんだ」


 頭のカチューシャを見せるように、軽く頭を下げる花音。

 直樹は懐かしく思った。一年前までは当たり前のようにつけていたカチューシャ。


「いいな…」


 直樹はぽつりと呟いた。
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