To.カノンを奏でる君
「帰ろう、ノンノン。送ってあげるわ」


 笑みをそのままに、花音に手を差し出す直樹。花音は一寸ばかり躊躇した後、直樹の手を取った。

 そうして二人は歩き出す。いつものように、繋ぎ合った手を大きく揺らして。


「送らなくていいよ、直ちゃん」

「あら、アタシじゃ不服?」

「そうじゃなくて、この頃変質者が多いでしょ?」

「なら尚更。ちゃんと送り届けなくちゃねー」

「そしたら直ちゃんが危ないよ」

「大丈夫よ。心は女でも体は男だから」

「でも」

「て言うのは建前で、本当はもう少しノンノンといたいだけ」


 愛らしくウインクをする直樹に、花音は苦笑するしかなかった。


「直ちゃんはもう…」

「誉めてる?」

「誉めてない」


 商店街を抜け、暗い夜道を歩いて行く。街灯が所々にあるだけの小道。

 街灯の下を通りかかる時、吐いた息が白に染まるのをはっきりと確認出来る。


「寒いねー」


 花音は隣で歩く直樹に言う。


「そうね」


 お互いぼんやりとしながら言葉を交わす。

 それからただ歩き続けた二人だったが、思い立ったように花音が言った。


「明後日、バレンタインだよね」

「あぁ、そうね、明後日は14日だわ」

「葉山さん…祥ちゃんにチョコあげるのかな」

「ふふ、気になる?」

「うん」

「そうよね。タータンは優柔不断……て、あれ? ノンノン、タータンにバレンタインチョコあげた事ある?」
< 119 / 346 >

この作品をシェア

pagetop