To.カノンを奏でる君
第12楽章≫決断と鍵。
朝一番に登校した美香子は、換気の為に教室の窓を開けた。
雪が降りそうなほど冷たい冬の風が、コート、マフラー、手袋を身につける美香子にお構いなしに吹きつける。
「寒…っ」
身を大きく震わせ、少ししてからすぐに窓を閉めた。
身を擦り、どうにか体を温めようと努力するものの、寒い事には変わりない。
美香子はコートのポケットからカイロを取り出し、氷のように冷たくなった自身の頬に当てた。ポケットの中で温まったカイロが美香子の頬を温める。
ふと目に映ったカレンダーを、美香子は黙って見つめていた。
明日、2月14日は聖バレンタインデー。ほとんどの女性が胸を高鳴らせ、ほとんどの男性が胸を躍らせ過ごす一日。
(受け取って…くれない、よね)
美香子は落ち込み、席に着いた。
恋は先手必勝。自分のやり方が間違っているとは思わない。
けれど、祥多は自分を見ない。花音ばかりを追っている。花音もまた、違う形で祥多を追いかけている。
(分かってる。私の入る隙がない事くらい)
分かっているのに、納得がいかない。
「…いいや。私はこのまま祥多君を追い続ければ。いつか振り向いてくれる」
まるで自己暗示のように呟き、立ち上がった。
「良い事をすれば良い事が返って来る。よし、掃除でもしよう!」
そうして美香子は黙々と教室の清掃を始めた。