To.カノンを奏でる君
 実は掃除が好きだったりする美香子は、鼻唄を歌いながら箒を自在に操る。

 昨日の放課後にきちんと掃除してあるので、あまりゴミは集まらない。


 集めた僅かなゴミを拾い捨て、美香子は黒板を拭き始めた。


「葉山?」


 突然の声に驚きながら、美香子は教室の入り口に目を向けた。


「祥多君」


 美香子は驚きの表情から一変、笑みを浮かべた。


(やっぱり、良い事するのっていい)


 内心そう思いながら、嬉しそうに祥多を見つめている。


「何やってんだ?」

「早く来て暇だったから、ちょっと掃除を」

「へぇー。しなさそうに見えるけどな」

「失礼ね! こんなんでも私、掃除好きなんだから」

「そっか。偉いな」

「でしょ?」


 祥多も笑みを見せてくれたのが嬉しくて、美香子は満足そうに笑った。


「あれ、花音ちゃんは?」

「あー、アイツ風邪引いて寝込んでるらしい。今日は休ませるっておばさんが」

「そうなんだ。珍しいね」

「ああ。アイツ滅多に体調崩さねーからな」


 フッと祥多の表情が和らぐ。花音の話をしている時だけ、祥多の表情は優しく穏やかになる。


(いいなぁ、花音ちゃん。こんな風に祥多君に想ってもらえて。羨ましいよ…)


 嫉妬ではあるが、今日の嫉妬はいつもとは少し違った。恨めしいより、羨ましいと思う嫉妬。
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