To.カノンを奏でる君
(私を見てくれる人なんて、誰もいないんだよね)


 キュッと唇を噛み締める。


 そう、昔から一人だった。喘息持ちの弟のせいで。


「葉山?」

「話、聞いてくれる? 祥多君」

「ん?」


 美香子は祥多を席に着かせ、その隣の席に着いた。


 そして大きく深呼吸をする。


「私ね、」


 美香子が口を開いた瞬間だった。

 突然、祥多が前のめりに倒れ込んだ。


 美香子は何が起こったのか全く分からず、状況を理解するのに数秒を要した。


「祥多……君……?」


 震える声で、美香子を祥多に触れる。

 荒い呼吸を繰り返す祥多。美香子は慌てて立ち上がった。


「すぐ……すぐ救急車呼ぶからっ」


 つらいが祥多を一人残し、職員室に向かって走った。


(祥多君、祥多君、祥多君…っ)


 間に合うようにと祈りながら、美香子は全力疾走で職員室に着いた。そこにはちらほらと通勤した教師達がいる。

 美香子は荒い呼吸を懸命に抑えながら訴えた。


「きゅ…救急車呼んで下さい!」


 ただ事ではないと感じ取った教師達が素早く動いた。


「何があった?!」


 美香子達の担任教師である吉原が美香子に詰め寄る。

 美香子は涙目になりながら、口を開く。


「祥多君が…っ」


 その言葉で、吉原は何があったのか一瞬にして悟った。


「発作か…!」
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