To.カノンを奏でる君
第13楽章≫甘くほろ苦いチョコレート。
翌日。家を出た花音を待ち伏せていたのは、緩い三編みに朱色のマフラー、ベージュのコートに茶色のブーツと全てを完璧に着こなした少年だった。
「直ちゃん…」
驚きのあまり、花音は固まって直樹を凝視した。
「な、何? 何なの、その格好は」
慌てて気合いの入った服装について問うと、にんまりと笑った直樹は花音の手を引いて駆け出した。
「昨日言ったでしょ。チョコ作ろって」
「聞いたけど、でも学校サボって作るなんて聞いてな……」
「じゃあ何? 市販のチョコをあげる気だったの?」
「じゃなくて、帰ってから作るつもりだったの。それで夜渡しに行こうと」
「ダメダメ、そんなの! それじゃあ失敗出来ないじゃない」
「……とか言って、直ちゃん。本当は私が祥ちゃんにチョコあげるとこが見たいんでしょ」
花音の鋭い言葉に直樹は一瞬顔を引き攣らせたが、無理やり笑って流す。
「ふふふ、やぁねぇ、そんな野暮な事しないわよぉ」
図星だと分かった花音は大きく溜め息を吐いた。
多少の躊躇いはまだあったものの、張り切っている直樹を見、抵抗する事を諦めた。
「そんなに心配そうな顔しなくても、ノンノンのお母さんにはちゃんと学校に連絡入れてもらえるように頼んであげるわよ」
「……絶対許してくれないね。特に祥ちゃん絡みについては」