To.カノンを奏でる君
「そうなんだ。凄いね、おじさん達。かっこいいや」

「そうかしら」

「そうだよ。売るだけじゃなくて、自ら商品を創るって凄いよ」

「まぁねー」


 喋りながらも手は動いていた為、二人は散乱していたデザイン画全てを回収し終えた。

 二人で集めた分を合わせてまとめ、直樹はテーブルの端に置いた。


「手伝わせてごめんね、始めよっか」


 直樹はマフラーやコートを脱ぎ、椅子にかかっていたピンクのエプロンを着用した。

 それから花音にオレンジの水玉模様のエプロンを手渡す。

 花音はそれを受け取り、コートを脱いで着用した。


「うん、似合う。じゃ、手洗っといて。おばさんに電話入れて来るから」

「あ、自分で」

「いいからいいから」

「でも」

「大丈夫よ。ノンノンは板チョコ溶かしておいてちょうだい」


 直樹は花音をたしなめ、子機を持ち一人リビングから出て行った。

 花音は不安げに直樹を見送った。暫くそうしていた花音だったが、小さく息を吐き、キッチンに入る。


 あらかじめ準備されていた道具と材料を見つめた。

 まな板に包丁、ボウルにバッド、板チョコにココアパウダー、生クリーム、無塩バター、シナモンパウダー。

 傍らにはページの開いたレシピ本。それを覗き込んだ花音は思わず苦笑した。


 トリュフのページだった。花音もトリュフを作ろうと思っていたのだ。


「以心伝心?」


 花音は笑い続けたまま、作業を始めた。
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