To.カノンを奏でる君
第15楽章≫一生の覚悟。
「私が中学三年生の時よ」
不意に由希は窓の方に目をやった。その仕草から、昔を思い出しているのだという事が伝わる。
「今の花音ちゃんと同じ頃ね」
視線を花音に戻し、ふふっと笑った。
「私の父は仕事で海外に行く事になって、母も兄もついて行くと言ったわ。でも私は残ると言った」
仄かに恋する少女のように笑んだ。
「好きな人がいたの」
「え?」
「従兄の新ちゃん。二つ上でね、優しくて博識でとても好きだったの。そんな新ちゃんの傍から離れるのが嫌でね」
くすくすと昔の自分を笑い、言葉を続ける。
「新ちゃんちに居候して日本の学校に通うーってワガママ言っちゃった」
愛らしい悪戯な顔で言った由希に、花音は目を丸くした。
由希がそんな行動派で、しかもそんなワガママを言うようには見えなかったからだ。
「昔はワガママばかりだったのよ。新ちゃんの前では良い子を演じてたけど」
「ひ、人って変わるんですね…」
「そうね」
「その、それから?」
「そうそう、ここからなのよ。新ちゃんには別の好きな子がいたの。まぁ、分かってて居候するって言ったんだけどね」
人と人とが結びつくのはそう簡単な事ではない。
恋愛は特に、一方通行が多いという事は花音はちゃんと知っている。
「その恋の相手は、私より一つ上の美人さん。新ちゃんの隣の家に住んでて、二人は幼なじみだったの」