To.カノンを奏でる君
「新ちゃんはね、祥多君と同じ病気だったの」

「え……」

「16の若さで静かに逝ったわ。最期に看取ったのは私。新ちゃんは律ちゃんに看取られる事を望まなかったから」


 看取ったという由希の言葉に、花音は肩を大きく揺らして目を見開いた。

 それは祥多との会話の中で一度出て来た言葉だ。


 あれは、そう。祥多と同じ病気だった少女が逝った日に、泣く花音に祥多が言った言葉だ。


“渚の死でそんなになって、俺をどう看取る気だ?”


 あの時花音は何も言えなかった。ただひたすらに泣いて謝るだけだった。

 花音はそれを思い出し、俯いた。


「どうして、看取る事が出来たんですか。つらくなかったんですか」


 自分には出来ないと思っている事を由希は成し遂げたのだ。


「つらかったわよ。苦しかった。でもどう足掻いても、新ちゃんの死は避けられない。大好きな新ちゃんを一人寂しく逝かせる事はしたくなかった。だから私は自分から看取ったの」


 涙声に変わる由希の声に、花音は驚いて顔を上げた。由希の唇は涙を堪えるように震えていた。


「結局、新ちゃんは最期まで律ちゃんの幸せを願ってたんだけどね」


 最後の一言で感極まったのか、由希はとうとう涙を流した。

 花音は慌ててポケットからハンカチを差し出した。由希は苦笑しながら大丈夫だと答え、白衣のポケットからハンカチを取り出して目許に当てた。
< 155 / 346 >

この作品をシェア

pagetop