To.カノンを奏でる君
「今回の手術はとても大きなものよ。そして長時間かかる。それが何を意味しているか分かるわよね」

「祥ちゃんの体力では耐えられない…」

「そう。元々この手術の話は数年前からあったわ。でも、祥多君の体にかかる負担の大きさを考えると一歩踏み出せない状態だった。それに…祥多君自身がその手術を望まなかった」

「えっ」

「怖くて仕方なかったのよ。手術を受けるにしても、成功する確率はとても低い。祥多君は花音ちゃん達と会えなくなる事に恐れを抱いていたの」


 ズキッと花音の胸が痛んだ。そのまま継続的に胸の痛みは続く。


「今回の手術は、祥多君が望んだ事なの。どうせ放って置いても死ぬなら手術に賭けてやってもいい──そう言ってね」


 初めて聞かされる裏側を、花音は手に汗を握りながら心に留めていた。

 祥多の傍にいながら、花音は何も知らなかった。

 手術が数年前からあった話だった事も、祥多がどんな思いで手術に挑むのかも。


 祥多は花音に自分の弱い所を見せなかった。いや、見せられなかったのかもしれない。

 花音に心配をかけたくなかったから。そう思うと涙が溢れた。

 はらはらと涙を零す花音を、由希は痛々しく思う。そっと頬に触れ、涙を拭った。


「ごめんね、余計つらい思いをさせちゃったかな」


 花音は首を横に振る。

 話を聞いた花音もつらかったが、話した由希はもっとつらかったはずだ。


「どうしてこんなに、人生は苦しい事ばかりなんだろうね」


 二人はそう思わずにはいられなかった。
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