To.カノンを奏でる君
(でも違ったんだな。俺だけが花音を必要としていたわけじゃなくて)


 花音も祥多を必要としていた。


 込み上げて来る言葉を飲み込み、堪える。まだ口にしてはいけない言葉だ。

 明日の手術を終えるまではまだ言えない。

 それは他の誰でもなく自分に誓った事。


「花音。顔、見せて」


 祥多の言葉に、花音はやっと祥多から離れた。

 涙で濡れた頬、真っ赤になった目。全てが愛しくて堪らなかった。


「手術ん時、ずっとお前の顔を浮かべとくよ。そうすれば絶対成功する」

「祥ちゃん…」

「俺にたくさんの幸せ、笑顔、ありがとな」

「これで最後みたいな言い方しないで」


 キッと睨みつける花音に苦笑した。


 静寂が辺りを包む中、祥多はもう一度、花音を強く抱き締めた。


 必ず、この場所に帰って来る。間違っても逝きはしない。

 彼女にちゃんと告白する為に必ず帰って来ると心に決めた。


 明日、新たな幕が上がる。





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