To.カノンを奏でる君
第16楽章≫待ち受けている未来。





 眠れない夜を過ごし、花音はふらつく足取りでドアを開けた。心配そうな母親に行ってきますと声をかけ、前方を見る。


「おはよ、ノンノン」


 白い息を吐きながら、直樹は花音に笑みを向けた。


「おはよう。どうしたの」


 まだ朝の7時にもならない時間だ。いつから門の所で待っていたのだろう。

 まだ二月半ば。雪が降る事もあるほどに寒いのだ。


「どうせ眠ってないんでしょ。アタシもなの。完徹同士、支え合って行きましょう。でなきゃどっかで倒れ込んで凍死よ」


 完徹で思考能力がおかしくなってしまったのか、直樹は愚痴っぽくなっている。花音は吹き出し、頷いた。

 確かにふらつく足取りで一人登校するよりはマシだ。


 そうして二人は歩き出す。


 祥多の手術は今日の9時からだ。あと二時間弱で祥多の闘いが始まる。そう思うと、いても立ってもいられない思いだ。

 出来る事なら傍に行って、頑張って、必ず帰って来て、待っているからと言ってやりたい。しかし、今日二人がきちんと学校へ行く事は祥多が望んだ事だ。

 頼むから学校に行ってくれと、祥多から切に言われた。

 祥多が何を思いそう言ったのか理解した二人は、従いざるを得なかった。


(タータンは、もしもの時を考えて…)


 70%の負の確率を思い、来るなと言ったのだろう。

 間近でそれを聞かされた時の二人の衝撃を案じて。
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