To.カノンを奏でる君



 待ち合わせ場所は、校門。

 野暮用で職員室にて担任教師と話をしている直樹が出て来るのを待つ。


 生徒達が楽しそうに、はたまた寂しそうに校門から出て、それぞれの世界に足を踏み入れる。

 花音の前を通りすぎる人の流れが、時間の推移を感じさせる。


 ふと空を見上げると、紫色が薄く伸びる雲の白と混ざり合い、優しく温かい気持ちにさせた。けれども何故か寂しくて、大切な誰かに逢いたくなる。


 花音は足を交差させ、ぼんやり向かい側の門柱を見つめた。する事がなく、暇を持て余す。


「直ちゃん遅い」


 口を尖らせ、ぽつりとぼやく。

 腕時計を見ると、もう5時だ。三十分も待っている事を確認し、軽く溜め息を吐く。


 タッタッタッ……とアスファルトを駆ける音が聞こえ、校舎に目を向けた。

 髪を一つに結わえ、花音の持つ紺色のスクールバックとは違う灰色のスクールバックを肩にかけ、荒い呼吸を繰り返す少年。


「ごめん、ノンノン!」


 途切れ途切れに待たせた謝罪の言葉を口にする。


「遅いよー。早く行こ!」

「うん」


 歩き出すと並ぶ影。しかしその影の大きさは違う。

 背は10センチほど直樹の方が高い。


「お見舞いは何持って行こう?」


 直樹は唸り声を上げながら呟く。花音はパパッと答えた。


 祥多の見舞いに持って行くのなら。


「林檎を一つ」
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